目次
判例要旨
1.営業につき名義貸与を受けたものが交通事故を起こした場合は、は商法23条
にある責任を負わない
昭和53年10月20日 最高裁判所第二小法廷
理由
上告代理人阿部長、同阿部泰雄の上告理由第一点について
原審は、商法二三条所定の名義貸与者の責任について、右の責任はその者を営業主と誤認して営業に関する取引をした者に対してのみ認められるものであつて、交通事故のような事実行為たる不法行為を理由とする損害賠償の請求は、右営業に関する取引とはいえないから、名義貸与者がこれについて責任を負うことはありえないとしながらも、すすんで、名義貸与者と同種の営業活動上惹起した交通事故につき不法行為に関する責任のあることを前提として、名義貸与を受けた者が名義貸与者の商号を用いて被害者と示談契約を締結することは、右にいう営業に関する取引にあたり、名義貸与者は、その者を営業主と誤認して右契約を締結した者に対し、名義貸与を受けた者と連帯して弁済の責に任ずべきものであると判示したうえ、(1) 訴外Aは、上告会社からその名義(商号)を使用することの許諾を受け、上告会社の商号である大宝商事株式会社の大東町出張所名義で事務所を開設し、同出張所長の肩書を用いて営業を行つていたこと、(2) 本件交通事故は右Aが営業活動を行うについて惹起されたものであること、(3) 被上告人らは、Aから上告会社大東町出張所長である旨を告げられ、上告会社の住所、電話番号を付記した右肩書つきの名刺を受領したこと等からAを上告会社の出張所長と信じ、Aとの間で、背後に本社としての上告会社の存在を前提とし、右出張所を相手方として、昭和四九年五月二四日、右出張所が、被上告人Bに対し医療費、慰藉料等九二万四一七〇円を、同寛に対し休業補償費等九万一五六〇円を同年一二月三一日までにそれぞれ支払う旨の本件示談契約を締結したこと等の事実を確定し、右事実関係のもとにおいては、上告会社はAが締結した右示談契約に基づいて被上告人らに対し弁済の責に任ずべきものとして、被上告人らの上告会社に対する本訴請求を認容している。商法23条は交通事故の賠償示談金にも適用されるか?
しかしながら、商法二三条の規定の趣旨は、第三者が名義貸与者を真実の営業主であると誤認して名義貸与を受けた者との間で取引をした場合に、名義貸与者が営業主であるとの外観を信頼した第三者の受けるべき不測の損害を防止するため、第三者を保護し取引の安全を期するということにあるというべきであるから、同条にいう「其ノ取引ニ因リテ生ジタル債務」とは、第三者において右の外観を信じて取引関係に入つたため、名義貸与を受けた者がその取引をしたことによつて負担することとなつた債務を指称するものと解するのが相当である。商法23条は取引の安全を期すためにあるといっている
それ故、名義貸与を受けた者が交通事故その他の事実行為たる不法行為に起因して負担するに至つた損害賠償債務は、右交通事故その他の不法行為が名義貸与者と同種の営業活動を行うにつき惹起されたものであつても右にいう債務にあたらないのはもとより、かようにしてすでに負担するに至つた本来同条の規定の適用のない債務について、名義貸与を受けた者と被害者との間で、単にその支払金額と支払方法を定めるにすぎない示談契約が締結された場合に、右契約の締結にあたり、被害者が名義貸与者をもつて営業主すなわち損害賠償債務の終局的な負担者であると誤認した事実があつたとしても、右契約に基づいて支払うべきものとされた損害賠償債務をもつて、前記法条にいう「其ノ取引ニ因リテ生ジタル債務」にあたると解するのは相当でないというべきである。交通事故の債務に商法23条の適用は無いといっている。
してみれば、原審の確定した右事実関係のもとにおいて、名義貸与者である上告会社もまたAと連帯して本件示談契約上の債務を弁済する責任があるとした原判決には商法二三条の解釈適用を誤つた違法があるものというべく、右違法はその結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由がある。したがつて、原判決は、その余の上告理由につき判断を加えるまでもなく破棄を免れず、これと同旨の第一審判決もまた取消を免れない。原審は誤りで交通事故の損害債務には商法23条の適用は無いとしている
そして、右説示したところによれば、他に特段の主張・立証をしたことの認められない本件においては、被上告人らの本訴請求はいずれも理由がないものといわざるをえないから、これを棄却すべきである。
よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 大 宗 喜 一 マコ
裁判官 本 林 讓
裁判官 服 部