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判例要旨
交通事故によって左大腿複雑骨折の傷害を受けても労働能力が減少しても、実際に収入減が生じていなければ損害賠償を請求することができない。
理由
交通事故による傷害のため、労働力の喪失・減退を来たしたことた理由として、将来得べかりし利益喪失による損害を算定するにあたつて、上告人の援用する労働能力喪失率が有力な資料となることは否定できない。しかし、損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を填補することを目的とするものであるから、労働能力の喪失・減退にもかかわらず損害が発生しなかつた場合には、それを理由とする賠償請求ができないことはいうまでもない。原判決の確定した事実によれば、Aは本件交通事故により左太腿複雑骨折の傷害をうけたが、その後従来どおり会社に勤務し、従来の作業に従事し、本件事故による労働能力の減少によつて格別の収入減を生じていないというのであるから、労働能力減少による損害賠償を認めなかつた原判決の判断は正当であつて、所論の判例に反するところもない。論旨は採用することができない。傷害をうけても損害賠償は実際に損害が発生していなければ請求ができないといっている。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 奥 野 健 一
裁判官 草 鹿 浅 之 介
裁判官 城 戸 芳 彦
裁判官 石 田 和 外
裁判官 色 川 幸 太